AI生成物に著作権は生じるのか?文化庁の見解や著作権対策を解説
生成AIの普及により、さまざまな分野でAIが活用されています。
AIを活用して生成した文章は著作権法の対象になるのか、AI生成物を公開したら著作権侵害のリスクがあるのかなど、著作権について詳しく知りたい人もいるでしょう。
この記事では、生成AIを利用して作成した記事は著作権が発生するのか、AI生成物による著作権侵害は発生するのか、などについて文化庁の見解や国内外の判例に触れながら解説します。
AIに著作権は発生するのか?
生成AI(以下、AIとする)を利用して作成した記事を公開したりクライアントに納品したりする場合、AIを利用して記事作成をすると著作権を侵害するリスクが高くなるのか気になる人もいるかもしれません。
AIが既存の文章を真似たり既存記事の一部を用いたりしたときに、著作権を侵害したらAI利用者が著作権法によって罰せられる恐れがあるかもしれません。
まずは、著作権について確認しておきましょう。
そもそも著作権とは?
著作権とは、著作権法に定められている著作者の創作物に対して発生する権利のことです。
著作物の定義は、思想または感情を創作的に表現したもので、主に音楽や文芸、美術、学術の分野とされています。
著作権は著作者が著作物を創作した時点で、自動的に取得することになります。
文化庁の『AIと著作権(2023年6月)』によると、著作権法の定義は以下の通りです。
著作権法は、著作物の「公正な利用に留意」しつつ、「著作者等の権利の保護」を図ることで、新たな創作活動を促し、「文化の発展に寄与すること」を目的としています。
著作物を利用する場合は、事前に著作者の利用許諾を得ておくことが重要です。
例えば、印刷や製本、販売、インターネット上にアップロードなどを行う場合が挙げられます。
ただし、著作物の利用行為全てが著作権を侵害するわけではありません。
具体的には、著作物を見たり記憶に留めたりするなど、私的使用のための行為は著作者に許可を得なくても利用できます。
著作権法には権利制限がある
著作権法には著作権を保護するだけでなく、著作権の範囲を制限する条項があります。
権利制限は、「社会や不特定多数の利益に寄与する目的なら著作物を利用してもいいよ」という規定です。
この規定に該当する場合は著作権侵害のリスクはありません。権利制限に該当する主な例は以下の通りです。
- 私的使用のための複製・引用
- 学校その他の教育機関における複製等
- 非営利・無料・無報酬での上演等
あくまでも著作権者の利益を不当に害する恐れがあるかどうかが、著作権侵害にあたるかどうかの結論につながると覚えておきましょう。
著作権侵害の2つの要件
ここでは、著作権侵害かどうかを決める2つの要件を詳しく解説します。
1.類似性
類似性は、既存の著作物と非常に似ている部分が多いか、同一であるかどうかを判断するための要件です。
思想や感情を表現する具体的な特徴に類似性があるかどうかで判断します。
したがって、事実の羅列や一般的に使用される表現(例えば、挨拶文や天気予報など)、アイデアなど、著作権法で保護されないものについては、類似していても著作権侵害にはなりません。
一方で、既存の文章の表現をそのまま使用したり、創作的な表現を模倣したりすると、著作権侵害に該当する可能性があります。
アイデアや単なる事実に類似性が見られても、それ自体は著作権侵害の対象とはなりません。
2.依拠性
依拠とは、著作物の存在を知った上で、それを自身が創作する際に使うことです。
既存の文章をそのまま真似て記事作成をした場合や、コピペした記事を公表または自身の創作物として販売した場合は、著作権法違反になります。
ただし、既存の著作物の存在を知らずに似たような記事になったことを証明できれば、偶然の一致として捉えられます。
要は、依拠が疑われる既存の著作物を見聞きしたことがあるか、どの程度似ている部分があるのかが問われるということです。
自分の創作物を制作した経緯を合理的に説明できれば、依拠性を否定できるかもしれません。
生成AIの普及により著作権が注目されている理由
AIの登場により、世界的に産業発展が期待される中で、著作権侵害のリスクが高まっています。
AIの開発・学習段階の流れは、既存の著作物を収集・複製したものを学習用ブログラムとして利用するのが一般的です。
そのため、AI開発者は著作権者から利用許諾を受ける必要がありました。
しかし、2018年に著作権法の改正で設置された法第30条の4によって、AIの開発や学習させる際に既存の著作物を利用する場合は享受が目的でない利用に該当することになっています。
そのため、著作権者の許諾を得ずにAIの開発や学習に著作物を利用できるようになりました。
ライセンス料が発生する著作物を収集したり複製したりする場合は、著作権者から利用許諾を得なければなりません。
AIを利用して生成した文章が著作権を侵害しているかどうかは、従来通り類似性と依拠性が認められるかどうかで判断されます。
既存の著作物を元に生成したAI生成物を無断で公表または複製を販売する行為は、権利制限規定の対象外なので注意しましょう。
※参考:「AIと著作権に関する考え方について(素案)」 に関して文化庁へ意見を提出しました
各分野のAI著作権問題
AIの利用によって、さまざまな分野で著作権に関する問題が懸念されています。
本章では、音楽分野と画像・イラスト分野におけるAI生成物の著作権問題について解説します。
音楽分野におけるAIの著作権問題
AIを利用した音楽制作での法的な課題は大きく分けて2つあると言われています。
1つはAI生成物の著作権が不明確な点です。
そもそも著作権は人が思想や感情を表現するために創作した物に対して発生します。
そのため、機械であるAIが生成した音楽は原則として著作権を主張できません。
AIを利用して制作した音楽には著作権が発生しないことで、クリエイターの権利が脅かされる恐れがあります。
特に、既存の楽曲を学習して生成した音楽を公表または販売した場合、既存の楽曲の著作権を侵害するリスクがあると懸念されています。
もう1つの課題は、世界各国と足並みを揃える必要がある点です。
音楽は国内外で配信されるため、国内でクリエイターの著作権を保護する法律があっても、他国で共通認識を持てなければクリエイターの著作権は侵害される恐れがあります。
例えば、EUではAI生成物に対して著作権が適用されますが、アメリカでは著作権を認めていません。
画像・イラスト分野におけるAIの著作権問題
AIを利用して生成した画像やイラストが著作権侵害に該当するかどうかは、原則として著作権法を元に決まります。
つまり、人がAIを使わずに作成した画像やイラストも、AIが生成した画像やイラストも、既存の著作物と類似性や依拠性が認められれば著作権侵害になります。
著作権侵害にあたる例として、AI利用者が既存の著作物を意図的に使用したり、プロンプトで既存の著作物や著作権者に関連する内容を入力したりして生成するケースが挙げられます。
要は、既存の著作物との類似性が認められなければ著作権的に問題ないと言えるでしょう。
ただし、AIを利用して生成した画像やイラストには著作権が発生しないため、音楽分野と同様にクリエイターは著作権を主張できません。
仮に第三者が無断で使用することがあっても著作権侵害を訴えることはできないのです。
思想や感情を表現した画像やイラストを作成する目的でAIを利用したと認められれば、AI利用者が著作権者として扱われるケースもあります。
AI生成物に関する国内外の判例
AI生成物による著作権侵害はすでに国内外で発生しています。
本章では、国内と海外で実際に発生したAI生成物による著作権侵害の判例を紹介します。
AI生成物による著作権の判例:国内
2024年2月、中国・広州インターネット法院(以下、法院とする)は、上海新創華文化発展有限公司(以下、被告とする)によるウルトラマンの画像を含む作品の著作権侵害を認めました。
本件の経緯は、株式会社 円谷プロダクション(以下、原告とする)は被告が無断でウルトラマンシリーズ作品の画像と同一または類似する画像を生成するAI生成サービスを提供していることに対し、2024年1月に原告が法院に著作権侵害を提訴したことが始まりでした。
原告はAI生成画像の生成停止とウルトラマン画像の訓練データからの削除、30万元の損害賠償を請求しました。
法院は原告の訴えを認め、以下の判決を下しました。
- 被告は直ちにウルトラマン画像の著作権の侵害行為を停止すること
- 被告はサービス利用者が、原告の著作権を侵害する恐れのある画像の生成を防止するための技術的措置を直ちに講じること
- 被告は効力発生日から10日以内に原告へ1万元(約21万円)を賠償すること
- 原告のその他の請求は棄却
AI生成物による著作権の判例:海外
2023年11月、中国でAI利用者を著作者と認めた最初の判例を紹介します。
本件の経緯は、原告が『Stable Diffusion』というAIツールにプロンプトを入力して画像を生成し、中国のインスタグラムで知られる小紅書(通称RED BOOK)にアップロード。
その後、百家号というバイドゥが運営するコンテンツ創作プラットフォームで、原告が被告の発表した文章の中で自身がAIを用いて生成した画像と類似していると知り、さらに著作権者の署名を除いて使用されていることに気づき、北京インターネット裁判所(以下、裁判所とする)に提起したことがきっかけでした。
裁判所はAI生成物を著作物と認め、著作権法の保護を受けると判決を下しました。
本件では、被告が原告の許可なく無断で画像を使用したため、原告の氏名表示権と情報ネットワーク伝達権(日本の著作権法の公衆送信権に相当する法律)侵害が認められました。
裁判所が下した判決内容は以下の通りです。
- 被告は本件の効力発生日から7日以内に原告に対して500元(約1万円)を賠償すること
- 被告は百家号のアカウント上で原告に対する謝罪声明を発表し、最低でも24時間は掲載させること
- 被告は謝罪声明の内容は裁判所の審査を受けること
著作権に対する文化庁の見解
文化庁の著作権に対する見解は大きく分けて2つのポイントがあります。
AIと著作権の問題を考える際は前述した通り、開発・学習段階と生成・利用段階の2つの段階に分けて判断されます。
- AIの開発・学習段階では既存の著作物に表現された思想や感情を享受する目的で利用していないと判断されるため、著作権侵害に該当しない
- 生成・利用段階でAIを利用して生成した文章や画像などを公表または複製物の販売を行う場合は、通常の著作権侵害と同様に判断される
著作権法では私的使用の複製は認められており、個人的に利用する分には著作権侵害の恐れはありません。
しかし公表または複製の販売などの行為のうち、著作権侵害の要件を満たす場合は著作権者による損害賠償請求や差し止め請求が可能です。
AIライティングにおける著作権侵害の対策
AIライティングをする際は既存の文章に対する著作権侵害に気をつける必要があります。
ここでは、AIライティングでできる著作権侵害の対策方法を2つ紹介します。
生成AIを利用する段階を把握し法的リスクを理解しておく
Webライターが著作権侵害に注意してAIを利用した記事作成をする場合は、文化庁が考えるAI生成物の著作権侵害の2つの段階をよく把握しておきましょう。
AIライティングの場合、文化庁が提示する生成・利用段階で著作権侵害にあたる行為をしていないか確認する必要があります。
具体的には、AIを利用して文章を生成する際に「〇〇という作品風の文章を生成して」「執筆者は著者〇〇です」など、既存の文章や著作者の氏名、作品名などをプロンプトに入力しないようにしましょう。
プロンプトに著作権者の氏名や作品名などを入力すると、既存の文章や著作権者が作成した表現と類似した文章をAIが生成する恐れがあるためです。
コピペチェックを徹底する
AIライティングで著作権侵害を対策するには、コピペチェックが効果的です。コピペチェックツールを活用すれば、AIが生成した文章が既存の文章と類似していないかを客観的に判断できます。
コピペチェックをせずに公開またはクライアントに納品すると、AI利用者が意図的に既存の文章を複製していなくても、コピペ率が高ければ、著作権者やクライアントから著作権を侵害する行為と判断される恐れがあります。
結果的に著作権者から賠償請求されたり、クライアントから契約を打ち切られたりするなど、最悪な事態を招くかもしれません。
AIの使用の有無に関わらず、文章や画像を公開または納品する場合は事前にコピペチェックを徹底しましょう。
まとめ
AI生成物は原則として、著作権は発生しません。
著作権者の著作物と類似性や依拠性が認められる場合は、著作権侵害にあたるため注意が必要です。
AI利用者が意図したかどうかは大きな問題ではなく、既存の文章を無断で複製したり類似する文章をアップロードしたりすれば著作権法に違反することになります。
文化庁の見解が著作権侵害かどうかの判断基準になるため、WebライターはAIの生成・利用段階で著作権侵害にあたる行為をしていないかという点に注意しましょう。